何を言っても、今日旅に出るということは変りそうも無い。しかし、僕だって荷物を持ってこなくては、旅なんて出来ない。
「荷物だけでも取りに戻ってもいいかい? カメラしか持ってきていないから、旅をするには準備不足なんだ」
「必要な物があれば、私が旅先で買おう。幸利の家にある物は、あまり動かさない方が望ましいのでな。理由は説明をすると長くなるから、移動をしながらしよう」
ミストが歩いていってしまったので、仕方なく後についていった。旅に必要な物を揃えることが出来るのならば、文句は一つも無いし、リースを見つける事が出来るのならば、急なことにも付き合う。
そんな事を考えながら家を出ると、ミストは地面に何か絵を書き始めた。いや、これは絵ではなく、魔方陣というものではないか?
「それは何なんだ?」
「これは魔方陣と言って、強力な魔法を使うときに用いることが多い。だが、今回は物体の転送先となる目印として使うんだ」
そんな事を説明してくれた後、何かを呟き始めた。
すると、地面に書かれた魔方陣が光を帯び始めた。その魔方陣にミストが手を当てた瞬間、周囲は光に包まれた。
眩しくて、目を開けていられないほどの光、僕には何が起こっているのかを理解することが出来なかった。
光が収まったので目を開けると、前には車が一台あった。
「乗れ、さっさと出発をするぞ」
すでにミストとハップは乗り込んでおり、僕が乗り込めば出発が出来る、という状態になっていた。しかし、一つ解決しておきたい疑問があったのだ。
「この車って、空を飛んだりするのかい?」
尋ねるとミストは笑い出し、「そんなことがあるわけ無いだろう、これは普通の車だ」といわれてしまった。
魔法の力で出てきた物が普通の車ということに、少々の疑問を抱きながらも助手席に乗り込んだ。この辺りの説明は道中でしてもらう。
「さぁ、出発だ」
そう言って、ミストは車のエンジンをかけて、アクセルを踏んだ。
思っていた以上に普通の旅になりそうだと、このときの僕は考えていたのだ。
ミストの家から少し迂回すると、道路がちゃんとあり、山を越えれるようになっているようになっている道があるので、そこから山を越えるようだ。
辺りは人通りが少なく、のんびりした雰囲気がある。道路が舗装されているといっても、辺りは木々に覆われていて、自然に溢れている。
とても落ち着いた場所なので、よくリースと散歩に来ていた。
彼女と話をしながら、気に入った風景を写真に収める。それだけで幸せだったのに、なぜ去ってしまったのだろう?
「さっきの話だが、荷物を動かさない方が良い理由なのだが、君の彼女が戻ってきたときに変っていない方が嬉しいだろう。何事も、変ってしまうというのは辛いことだからな」
ミストは微笑を浮べながら言った。だが、その表情は少し悲しげで、何かを憂えているようにも見えた。
それは、僕の考えすぎなのだろうか? 考えても答えが出るはずのないことを考えながら、ミストの顔を見つめていた。
ひょっとしたら、彼女にも似たような経験があったのかもしれない。大切な何かが変ってしまって、悲しい想いをしたことが…。
魔女として生きていくということは、僕が考えているよりも大変なのかもしれない。力を持てるというだけでなく、自分が望まない関わりが生まれることがある。
それは、僕だって例外じゃない。生きているということは、常に何らかの関わりが生まれてしまう。
誰かと関わることを避けて、自然の写真ばかり撮ってきた。それで生計を立てることが出来ているのが幸せなのだが、このままではいけない。そんなことを考え始めたときに出会ったのが、リースだ。
リースが居なければ、一人きりで今も一人で旅をしているだけだっただろう。
彼女が何かを抱えているというのなら、僕にも背負わせてほしかった。一人で抱えるんじゃなく、二人で一緒に頑張ろう。
最初に言ってくれたのは、彼女のはずなのに。
「恋人は零斗を嫌いになったから去ったんじゃない。きっと去らなくてはいけない理由があったんだ」
僕の心を見透かしたような言葉だったので、驚いて尋ねた。
「魔法で人の心まで見えるのか?」
「いや、長年の人生経験における勘というものだ。魔法で記憶は消せても、読み取ることなんて出来やしないよ」
ミストは、うっすら笑みを浮かべて言った。
クリックしていただけたら元気が出ます
テーマ : 自作小説(ファンタジー) - ジャンル : 小説・文学