魔女? そんな事を言われても、そんな事を納得できるほど柔軟な発想を持ち合わせていないが、目の前に立っている彼女に起きている事と、さっき自分に起きたことを考えると嘘とは言えないような気がする。
それに、この女が本当に魔女なのかよりも、大切なことがあった。
「本当に彼女の居場所を知っているのか?」
「居場所を知っているとは言っていない、彼女が君の前から去った理由ならば容易に想像がつくというだけのことだ」
この女は確かに彼女が何処にいるのか、知っているとは言っていなかったけど、僕を馬鹿にしているような態度が許せなかった。
「何が可笑しいんだ、話が無いなら失礼さしてもらう」
「君は彼女の名前を知っているかね?」
女がした質問に僕は意味が分からなかった、名前なんて聞いてどうするつもりなんだ。
「お前なんかに名前を教えるわけにはいかない。彼女との関係も分からないような怪しい奴にはな」
厳しい口調で言うと、女は不敵な笑みを浮かべている。この表情を見ていると、魔女というのも本当な気がしてくる。
沈黙の後、いつの間にか彼女の肩に黒猫が乗っていた。
「こんな男は捨てておいて早く探さないと、気配が残っている内に探した方が良いわ」
女とは別の声が何処からとも無く聞こえてきたので、辺りを見回すが人影は無い。目の前には自称魔女も居るし、不気味なのでここから離れたい。
「少年、今の声は私のペットである、ハップの物だぞ」
そう言って、黒猫を指差した。ネコが喋るなんて話は聞いたことが無いので、疑いの眼差しを向けている。
「レディーを見つめるのは失礼だわ」
黒猫が本当に話したので、僕は驚いてしまった。この女は本当に魔女なのかもしれない。
「私に彼女の名前を教えてくれたら、追えるかも知れない。少年は女性を見つけたいから協力をする。それは不満かね?」
僕にとってはありがたい申し出なのだが、それでは女にメリットが無いような気がする。魔女という言葉のイメージなのだが、どちらかと言うと悪役だと思う。
だから、人助けが趣味なんて信じられなかったので、彼女を探すことを手伝ってもらうのに抵抗があったのだ。
「何故、お前は彼女を探したいんだ?」
「私も貴方の彼女を探しているから、というのは理由にならないかしら? それと、お前って言われるのが好きじゃないから、名前で呼んでもらえないかしら。後、君の名前も教えてもらえるかしら」
そんな事を笑顔で話しているのだが、笑顔に温かさを感じない。むしろ、笑顔が少し怖いと感じるぐらいだ。
「僕の名前は、羽山 幸利だ。そして、彼女の名前はリース・ブラント」
僕が言うと、ミストは驚いた表情を浮かべ、顔をじっと見つめてきた。何か変なことを言ってしまったのだろうか?
それから、怪訝な表情を浮かべて何かを呟き始めた。
それから、待つこと数分。ミストは呟くのを止めて、黒猫と何かを話しているようだった。そして、一つの結論に達したようだ。
「彼女の居場所は特定できなかったけど、この国に居ることは間違いが無さそうよ」
そんな大雑把な特定なんて、詐欺と一緒じゃないか。と言おうとしたのだが、まだ何か続きを言いそうなので、黙っていることにした。
「そして、この名前は偽名で本名は別にある。偽名と言えど、本人が愛着を持って使っていたから、どこの国に居るかが分かったわけなんだけどね」
彼女が偽名を使っていたのは何のためだ? 本名を知られたらいけない理由が何かあって、その事が突然の別れに関係をしているのだろうか?
「私と一緒なら彼女を見つけるのは容易い、とは言いがたいが、普通の人間が一人で探すよりも楽に見つかるだろう。ここは、お互いの利害のために協力をしないか」
ミストが笑みを浮かべて尋ねてきたので、僕は頷いた。だけど、一つだけ言っておかなくてはいけないことがあった。
「彼女を傷つけるつもりなら、僕は君を…、ミストを許さない」
すると、ミストは不敵な笑みを浮かべるだけで、何も言葉を返しはしなかった。彼女を探すためとはいえ、こんな奴と手を組んでも大丈夫だったのだろうか?
大きな不安を胸に、僕達のたびは始まった。
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